2016年11月22日火曜日

都市福岡を極める/究める~その③ 150万都市のDNA~

半年近く滞った「都市福岡を極める」、またも忘れた頃の更新です。相変わらずでスミマセン。 

前回は、吉田初三郎の鳥瞰図を素材に、福岡市が明治以来めざしていた発展ベクトルの軌道修正という仮説を提示してみました。 

伸びやかに美しく、博多湾岸と近郊の観光・遊覧スポットを紹介する初三郎鳥瞰図。1936(昭和11)年の築港博覧会をきっかけに、博多商工会議所が依頼した観光鳥瞰図が示すものは、企業誘致から観光振興へという軌道修正への模索ではないか。 

もちろんそのような見方は、福岡市の今日に至る発展のあり方を知っている者の、歴史の後知恵です。企業誘致による産業都市化への夢は、第二次大戦後も放棄されてはいません。 でも、昭和10年代の観光鳥瞰図は、福岡市の都市的発展の動力が、「工場」から「交通」へと転換していくことを予見するかのような、あるいはそんな見方に私たちを誘い込むような魅力を秘めています。(この場合の「交通」は、広く人、モノ、情報の流通全般を指すとお考え下さい。) 

前田虹映「観光乃福岡市」(原画、福岡市博物館所蔵)
そう考えると、より興味深いのは前田虹映による鳥瞰図です。
虹映は初三郎の高弟にあたる人で、やはり博多商工会議所の依頼で福岡市鳥瞰図を描いています。 虹映鳥瞰図も、初三郎と同様に陸から博多湾を見るように描かれています(この構図が海港都市の鳥瞰図として例外的であることについては、前回ブログをご参照下さい)。初三郎に比べると、より絵画的で細密な描写が印象的ですね。画面のそこここにさまざまな人物が書き込まれているのも、注目ポイントです。 

そのような目で細部を見ていくと、福岡市の観光・遊覧都市としての側面がより強調されていることが分かります。それだけでなく、「工場」から「交通」へという視点から見て、見どころ満載なのが虹映鳥瞰図なのです。


部分拡大図①

例えば博多駅(画面中段右寄り、部分拡大図①)。駅に降り立った家族連れは明らかに観光目的でしょう。さらに拡大図①の手前、油山に遊ぶ人々は、服装から見ても行楽というより、ハイキングというモダンな言葉がぴったりです。ハイキングはこの絵が描かれた当時の新しい流行で、昭和10年前後にはハイキングの手引き書が数多く出版されています。


部分拡大図②

あっと驚くのは、部分拡大図②です。百道浜で海水浴を楽しむ横では、蒙古兵に切りつける鎌倉武士の姿が、そして沖合(というより目の前)には、何と沈み行く蒙古の軍船が描かれています。 現在に重ねて、同じ画面に歴史上の場面を描いてしまう。これはもう拡張現実の手法で観光に歴史を動員する、1930年代のARでしょう。 同時に、歴史を動員する観光プロジェクトで、金印はまだ影も形もないところも注目されますね。 



部分拡大図③

では「工場」の方はどうでしょうか。部分拡大図③をご覧下さい。画面右側の海沿いの土地は、博多湾築港計画で新たに埋め立てられた箱崎浜です。現在では流通関連の倉庫などを中心とした施設が集中しています。 画面上では、林立する煙突が印象的ですが、もちろんこれは想像図です。埋め立て完了と同時に工場が立ち並んだわけではありません。ここには、明治以来の博多湾築港の夢、すなわち埋め立て地への工場誘致の願望が表現されているのです。 

しかし全体図で見ると、願望の実現にしては存在感が薄いと感じます。それに比べて、雁ノ巣の福岡第一飛行場のしっかりした存在感はどうでしょう。 福岡市史の編集委員会副委員長をつとめて頂いている、長崎大学名誉教授の柴多一雄先生が最近の研究で明らかにされたところによれば、福岡空港は昭和10年代の初めには、発着便数、旅客数、貨物数の全てにおいて、東京、大阪をはるかに上回る位置を占めていたのです。 

いかがですか。
このように見てくると、虹映鳥瞰図はまるで、「工場」から「交通」へという福岡市の発展の方向性を予見していたように見えてきませんか? ちょっと乱暴かもしれませんが、150万都市福岡のDNAが見えたと言ってみたい気がします。 

はじめて公開される柴多先生のご研究を含め、本ブログで取り上げた福岡市の都市的発展の来歴について、今週土曜日の市史講演会で詳しく取り上げます。福岡大学工学部の石橋知也先生からは、戦後の都市計画と海に開いてゆく福岡市に関する、とても興味深いお話をうかがいます。

古代のロマンとはまたひと味違う、歴史的想像力の世界にひたってみませんか。 直前の告知になって申し訳ありませんが、是非ご来場下さい。

なお、福岡市博物館では、特別展示室Bで、展覧会「大正・昭和の福岡市ーアロー号とその時代」を開催中です。会場で、吉田初三郎と前田虹映の鳥瞰図の実物をご覧いただけます。こちらの方にも、どうぞお出かけください。




【チラシPDF】 http://www.city.fukuoka.lg.jp/shishi/pdf/lecture12.pdf

【福岡市史ホームページ】 http://www.city.fukuoka.lg.jp/shishi/

【大正・昭和の福岡市ーアロー号とその時代ー】http://museum.city.fukuoka.jp/exhibition/tokubetsu.html#arrow