2016年10月8日土曜日

ここまで来た文化財交流 ~釜山福泉博物館の特別展示「日本の古代文化」~

今月4日、5日の両日、韓国を訪問してきました。主な目的は、釜山福泉博物館の特別展「日本の古代文化」の開会式に出席するためです。奈良の橿原考古学研究所とともに、福岡市からも、吉武高木遺跡出土の重要文化財を含む遺物をはじめ、多数の資料が出品されています。113日には、国際学術シンポジウムも開催される予定です。

展覧会場は常設展示室の一部を使用した、比較的コンパクトなものですが、そんなことよりも、韓国の博物館で「日本の古代文化」をテーマに掲げた展覧会が開催されることに、なにがしかの感慨を抱かれる方も、少なからずおられるのではないでしょうか。私も、日韓の文化財交流もここまで来たかとの思いを抱きました。

会場入り口。メインビジュアルのチャーミングな女性の埴輪は橿原考古学研究所所蔵。
韓国の博物館はビジュアルの処理が上手です。

展示解説中の担当学芸員・金東潤(キム・ドンユン)さん

あまり広く知られていないかもしれませんが、福岡市と韓国の釜山広域市は、1996年から文化財に関する交流事業を行っています。正式な事業名称は「福岡市・釜山広域市文化財担当者交流事業」、現在三期目を迎えており、今後も継続されるはずです。

これまでに展覧会だけとってみても、企画展「考古資料からたどる日韓交流展」(福岡市博物館、20091117日~1213日)、国際交流展「土を捏ねて玉を作る 竜泉青磁」(釜山市博物館、20111210日~201225日、福岡市埋蔵文化財センターから多量の陶磁器を貸し出し)などが開催されています。それ以外に、事業の眼目である文化財担当者の交流は、日常茶飯事といっても過言ではありません。そのような交流の積み重ねの上に、展覧会が成り立っているのです。

文化交流は、長い時間をかけた蓄積の上に開花するものです。打ち上げ花火のように、いっとき新聞の見出しになっても、すぐ消えてしまうようなものでは意味がありません。くどいようですが、「日本の古代文化」をテーマとする展覧会が、韓国の博物館で開催されたことの意味を、私たちは改めてかみしめるべきでしょう。そこには、地道な積み重ねがもたらした、文化交流の深みと奥行きが示されていると思います。これはやがて必ず、社会のさまざまな面で効いてきます。

それにつけても、私たち文化財関係者はパブリシティが下手ですな! 市民の皆さんの多くは、こんなことご存じないと思います。これって、市民に対する説明責任の問題だと思うんですよね。ひたすら自戒……

滞在二日目の5()午前中、釜山地方は台風18号に直撃されました。私のスマートフォンにも、二度ほど緊急速報のようなもの(ハングルが読めないので、「のようなもの」としか言えません)が入ってびっくりしました。被害に遭われた皆さまに心よりお見舞い申し上げます。